脂肪酸 脂質 脂質の運搬
生体成分のうち、水に溶けにくく、有機溶媒(クロロホルム、エーテル、ベンゼンなど)に溶けるものを脂質(lipid)という。単純脂質,複合脂質,コレステロールに大別される。多くの脂質には構成成分として脂肪酸が含まれる。単純脂質と複合脂質には構成成分として脂肪酸が含まれる。
脂質の種類
単純脂質 油脂: 脂肪酸とグリセリンから成る3価のエステル。
ロウ: 高級脂肪酸と高級アルコールから成る1価のエステル。
複合脂質 リン脂質: 脂肪酸、アルコール、リン酸、窒素化合物から成る複雑なエステル。
糖脂質: 脂肪酸、アルコール、糖、窒素化合物から成る複雑なエステル。
非ケン化物: 酸やアルカリで加水分解されないような脂質。カロテノイド、エイコサノイド、ステロイドなど。
中性脂肪 リン脂質 コレステロール
リン脂質のR2CO-は,ほとんどの場合,不飽和脂肪酸である。



油中性脂肪(単純脂質の例)やリン脂質・糖脂質(複合脂質の例)の構成成分である。油と脂肪の違いは,それを構成する脂肪酸の違いである。これには, @二重結合の数,  A炭素数 の違いが反映される。
油脂やリン脂質,糖脂質を構成する脂肪酸は、次のような特徴をもつ。
●炭素数は通常、偶数である、
●二重結合(>C=C<)をもつもの(不飽和脂肪酸)もある、
●枝分かれや環状構造のものはほとんどない。
炭素数は12-20が多く、二重結合はシス型である。二重結合が多いほど融点は低い。


オレイン酸の構造
右は分子モデル。
末端メチル基から数えて二重結合が始まる位置が6の脂肪酸をn-6系列,3から始まる脂肪酸をn-3系列という。リノール酸,エイコサペンタエン酸(EPA, icosapentanoic acid→イコサペンタエン酸),ドコサヘキサエン酸はn-3系列,リノレン酸やアラキドン酸はn-6系列である。
● 脂肪酸の姉妹関係
 ヒトは二重結合を1つもつオレイン酸を体内で合成できる。しかし,二重結合が2つ以上もつ脂肪酸をつくることができない。したがって,食物から摂取した必須脂肪酸リノール酸やリノレン酸からアラキドン酸(20:4)やエイコサペンタエン酸(EPA, 20:5),ドコサヘキサエン酸(DHA, 22:6)をつくる。

リノール酸は食生活で過剰摂取になる傾向が強いので注意が必要。リノール酸の過剰摂取を防ぐために、α-リノレン酸、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)などの、n-3系列の脂肪酸との摂取バランスを取ることが大切。比率は、リノール酸などのn-6系列の脂肪酸4に対し、n-3系列の脂肪酸1の割合が望ましいとされている。

● 脂肪酸からつくられる生理活性物質(エイコサノイド)
 多価不飽和脂肪酸の酸化によってつくられる炭素数20の化合物の総称。プロスタグランジン(PG),プロスタサイクリントロンボキサン(TX),ロイコトリエン(LT)などがある。

ホスホリパーゼA2は細胞膜脂質の2位のアシル基に作用し,脂肪酸(主としてアラキドン酸)を遊離させる。アラキドン酸から,以下のように,次々と活性物質が生み出される。これをアラキドン酸カスケードという。
PGE1 TXA2 LTA4
エイコサノイドは,血管拡張・収縮,血小板凝集,ホスホリパーゼA2阻害,免疫抑制作用など,多彩な生理活性を示す。



油脂(oil & fat)
常温で液体のものを油、固体のものを脂肪という。油脂はグリセリンの3価のエステルで、酸で加水分解すると3分子の脂肪酸と1分子のグリセリンが得られる。アルカリで加水分解(ケン化という)すると、脂肪酸のアルカリ塩となる。アルカリ塩を石けんという。

石けん分子は疎水性と親水性部分を併せもつ。
石ケンを水に溶かすと,石ケンは水と空気の界面に集まる。これを吸着と呼ぶ。この結果,水の表面張力が減少する。さらに石ケンの濃度が増すと,石ケン分子同士が集合してミセルと呼ばれる集合体をつくる。ミセルが生じると,石ケンの濃度がこれ以上増しても表面張力は一定となる。
ロウ(wax)
高級飽和脂肪酸(長鎖の脂肪酸)と高級アルコールのエステルである。多くの生物で,ロウは保護被膜や水の防壁に利用。羽根、皮膚、毛皮、葉の表面に存在する。マッコウクジラは浮力と衝撃波音発生に使う。
種類 主成分
蜜ロウ パルミチン酸ミリシル C15H31COOC30H61
鯨ロウ パルミチン酸セリル C15H31COOC16H33
羊毛ロウ オレイン酸コレステロール C17H33COOC27H45

破線はエステル結合
リン脂質(phospholipid)
リン脂質(phospholipid)は,リン酸を含む脂質である。グリセリンを含むものをグリセロリン脂質、スフィンゴシンを含むものをスフィンゴ脂質という。リン脂質や糖脂質は水になじむ部分(親水性基)となじまない部分(疎水性基)の両方もつので,両親媒性脂質と呼ばれる。両親媒性脂質は脂質二重層をつくり、細胞膜を構成する。
ホスファチジルコリン
(レシチン)
ホスファチジルエタノールアミン
(ケファリン)
リン脂質の構成と脂質二重層(右)
細胞膜は脂質とタンパク質でできている
糖脂質(glycolipid)
D−ガラクトースなどの糖を含む脂質である。脳神経組織に多い。

 糖脂質の構造
不ケン化物
 脂質のうち,加水分解を受けないものを不ケン化物という。これには,カロテノイド、エイコサノイド、ステロイドなどがある。コレステロールはステロイドの代表化合物で,これから種々のステロイドホルモン,胆汁酸,ビタミンD前駆体が生合成される。また,コレステロールは細胞膜の重要な構成成分である。

エイコサノイドの例(PGE1) ステロイドの例(左,男性ホルモン;右,女性ホルモン) カロテノイドの例(ビタミン K)
胆汁酸はその強い界面活性作用で食事で摂取した脂質を乳化し,消化・吸収を助ける。
コール酸(胆汁酸の1つ) コレステロール


 脂肪は膵液のリパーゼでC1とC3のエステル結合が切られ,2-モノグリセリドが生じる。2-モノグリセリドは異性化されて1-グリセリドになり,さらに分解される。生じた脂肪酸は胆汁酸塩(一種の生体内セッケンの役割)とミセルを形成して小腸粘膜の上皮細胞で吸収される。ここで,再びトリグリセリドに再合成され,これにコレステロールや少量のリン脂質とタンパク質が加わり,カイロミクロンになる。カイロミクロンは約1mmの血漿リポタンパク質の一種で,食後,一過性に増える。カイロミクロンはリンパ管を通って静脈内に入り,筋肉や脂肪細胞などの組織に運ばれる。また,コレステロールに富んだ残存カイロミクロンは肝臓に運ばれ,細胞表面の受容体を介して取り込まれる。

 水に溶けない脂質は血液中をどうやって運ばれるのだろうか?その役割を担うのが,種々のリポタンパク質(lipoproteins)である。リポタンパク質は,トリグリセリド,コレステロール,リン脂質およびアポタンパク質で構成される。
ヒト血漿リポタンパク質
種類 比重 電気泳動の
移動度
大きさ
(nm)
構成成分(%) 機能
タンパク質 トリグリセリド コレステロール リン脂質
カイロミクロン < 0.95 原点 100-1000 2 84-95 7 7-8 食事性脂質運搬
VLDL 0.95-1.006 プレβ 30-75 4-11 44-60 16-23 18-23 肝臓からの脂質運搬
LDL 1.006-1.063 β 20-25 23-28 8-11 42-56 25-27 コレステロール運搬
HDL 1.063-1.21 α 5-13 21-48 4-9 10-48 22-28 肝臓へのコレステ
ロール運搬
 肝臓で合成された脂質は,超低密度リポタンパク質(very low-density lipoprotein, VLDL)として血液中に放出される。途中,VLDLの分解により,中間密度リポタンパク質(intermeadiate-density lipoprotein, IDL)や低密度リポタンパク質(low-density lipoprotein, LDL)になる。LDLはコレステロールとそのエルテルに富み,コレステロールの運搬に関与している。肝臓や他の組織でつくられる高密度リポタンパク質(high-density lipoprotein, HDL)は比較的タンパク質に富むので,密度が高く,カイロミクロンやVLDLとの間でアポタンパク質をやり取りする目的に使われる。
 HDLに含まれるコレステロールは動脈硬化を予防するので,善玉コレステロールと呼ばれる。逆に,高濃度のLDL中のコレステロールは動脈硬化の原因となることから,悪玉コレステロールといわれる


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