アルコール発酵[alcohol fermentation]
 
糖または多糖からエタノールと二酸化炭素とを生成する発酵。
 
C6H12O6→2CH3CH2OH+2CO2
 
乳酸発酵と並んで発酵の代表的なもので,微生物,特に野生性の著しいもの,また植物界に一般的である。酒造はこの応用。これを特徴的に強力に営む生物は酵母である。この反応を酵母の作用に帰したのはL.パストゥール(1857〜58)で,その後1940年ぐらいまでに,反応経路(エムデン マイエルホーフ経路)の全貌はほとんど明らかにされた。この反応の主要部分は解糖と共通であり(解糖),糖質が燐酸エステルとなり,2分子のトリオース燐酸に分割,その酸化と関連して2個のATPを生成してピルビン酸ができる。これが二酸化炭素を放出してアセトアルデヒドとなり,上の酸化を埋め合せる還元でアルコールができて終結する。上の方程式で放出される約50kcalの自由エネルギーで4個のATPができるが,そのうち2個は最初の糖の燐酸化に使われる。アルコール発酵は通常,検圧計・発酵管などによる放出二酸化炭素の測定,または蒸気蒸溜で捕集したアルコールの定量によって測られる。
 
解糖[glycolysis]
グルコース(あるいはグリコゲン)を嫌気的に乳酸に分解する代謝過程。グルコース1分子の分解により乳酸2分子を生じるが,それに伴って2分子のアデノシン二燐酸(ADP)とオルト燐酸(Pi)から2分子のアデノシン三燐酸(ATP)が生成する。嫌気的条件下における生体のエネルギー獲得反応の最も主要なもので,たとえば動物の筋肉の主要エネルギー源である,ATPはグルコース1分子当り2分子生成する。グルコースの乳酸2分子への全過程のΔG° =−47kcalであるので,ATP生成のエネルギーを7.3kcalとすれば,エネルギー収率31%ということになる。なお広義には,解糖は極めて多くの生物による同経路による糖の分解,すなわち嫌気性微生物による種々の発酵や好気的な糖分解のピルビン酸生成までの部分を含む。後者ではピルビン酸は脱水素されてアセチルCoAになり,クエン酸回路に入ることによって二酸化炭素まで酸化されるが,このとき解糖で生じたものも含めて,呼吸鎖によって酸化されることになる。解糖系酵素はすべて細胞質液部分に存在し,そこで解糖が行われる。
 
呼吸鎖[respiratory chain]
通常,ミトコンドリアなどの分子状酸素によるNADHおよびコハク酸などを酸化する電子伝達体の集合。チトクロムや非ヘム鉄を含む電子伝達系を指す。その電子伝達の順序は,各々前のものの還元型がその直後のものの酸化型を還元し,その繰返しによって最終的に分子状酸素を水に還元することを示す。呼吸鎖にはさらに非ヘム鉄および銅原子などが関与している。細胞内ではミトコンドリアの内膜にあり,各段階の酵素複合体は脂質二重層を貫通して存在すると考えられている。呼吸鎖はクエン酸回路などにおいて基質の脱水素で生成したNADHあるいはある種の基質を最終的に分子状酸素で酸化する機構であり,この作用に共役してADPとオルト燐酸からATPが生成する。これを酸化的燐酸化反応という。したがって呼吸鎖は細胞において基質の完全酸化だけでなく,エネルギーを獲得する過程としても重要である。細菌においても,細胞膜にミトコンドリアと類似の呼吸鎖が存在する。
 
 
酢酸発酵[acetic acid fermentation]
いわゆる酸化発酵の一つで,アルコールから酸化的に酢酸が生成される過程。生産菌は酢酸菌(Acetobacter aceti)など。なお種々の微生物が嫌気的に諸化合物から酢酸をつくるが,これらを酢酸発酵とはいわない。食酢の製造などこの利用は人類の歴史に古いが,酢酸菌の発見はL.パストゥール(1863)に負う。
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