分子生命科学

1.細胞

<細胞説>

1665 Hooke 「顕微鏡図説」を出版

          コルクの切片がハチの巣状であることを発見、cellと名づける

1677 Leeuwenhook 精液中の精子を記述

1683        バクテリアを記述

1831 R.Brown  核を発見

1838 Schleiden 「植物発生論」

     Schwann 「動物と植物の構造と成長に関する顕微鏡研究」

       →細胞説を唱え、定着させる

 

細胞説・・・細胞はすべての生物の構造の単位であり、細胞の働きが集まって生物の体

全部の働きが成り立っている

1861 Schltge 原生生物、植物、動物に共通な「原形質」という概念を提出した

原形質・・・細胞の活動している部分を構成している物質

細胞質・・・原形質から核を除いた部分

 

<細胞>

☆定義・・・外界を隔離する膜構造に囲まれ、内部に自己再生能を備えた遺伝情報とその発現機構を持つ生命体  ※赤血球、神経細胞なども含む

☆大きさ・・タマゴや卵などを除き肉眼の解像限界より小さい。光学顕微鏡によって観察可。(肉眼解像限界・・約100μm 光学顕微鏡解像限界・・約100nm

※一部の細胞小器官は電子顕微鏡でないと観察不可。

(電子顕微鏡解像限界・・約0.15nm

☆種類・・・真核細胞(核膜あり)、原核細胞(核膜なし)

 

<細胞小器官、生体膜>

細胞小器官・・・細胞の内部で一定の機能を持つ構造単位

生体膜・・・細胞あるいは細胞小器官と外界との境界の膜(約10nmほど、脂質二重層が基本構造)

☆具体的な細胞小器官、生体膜

@細胞膜(形質膜)

・薄くやわらかい

・イオン、低分子物質(グルコースほか)を透過しない

・選択的な輸送体が存在する場合は、促進拡散(受動輸送)、能動輸送が行われる

Aミトコンドリア(糸粒体)

・直径1〜3μm

・真核細胞に見られる細胞小器官

・外膜が内膜を包んだ形をしている

・物質の酸化によるエネルギーを用いてATPを合成する

・酸化的リン酸化(ATP合成)が主要な役割

・固有のDNA、リボソーム、tRNAがそろっており、半独立の増殖系を形成

 →ミトコンドリアの起源は好気性細菌の寄生によるという考えの根拠(共生説)

※好気性(呼吸に酸素を使う)←→嫌気性(使わない)

・母性遺伝する

 

B細胞質ゾル

・細胞質の細胞小器官の間を埋めている

・電子顕微鏡で観察すると、均質で無構造

・各種のたんぱく質、核酸(mRNA,tRNA)を含む

・解糖系が存在

 

Cリソソーム

・直径0.2〜0.5μm

・中に一群の加水分解酵素を含む小胞(約70種)

・異物消化、自己消化を行う

 

Dゴルジ体

・リボソームで合成された前駆体タンパク質を受け取り、修飾、加工して、別々の小胞に包装して、細胞膜、リソソームといった最終目的地に選別輸送する

 

Eペルオキシソーム

・直径0.2〜0.8μm

・過酸化水素を生成、分解する細胞小器官

Fグリコーゲン顆粒

D-グルコースからグリコーゲン合成系によって動物細胞質内に形成される顆粒

・水に不溶、直径10〜40nm

・筋、ついで肝に多い

G滑面小胞体、粗面小胞体(SER、RER)

・核の外膜との連続が認められる

・リボソームの付着したRER→タンパク質合成する

・リボソームの付着しないSER→リン脂質やコレステロール、膜タンパクの合成

 

Hリボソーム

・タンパク質合成の場として働くRNA−タンパク質複合体

(すべての細胞、ミトコンドリア、葉緑体に存在)

・約60%のrRNAと約40%のリボソームタンパク質からなる

※合成手順・・・リボソームタンパク質が細胞質(リボソーム)で合成され、核孔を通り、核内へ入った後に核内で合成されたrRNAと一緒になり完成する。完成したリボソームは核孔を通り、細胞質へ移動する。

 

I核

・直径10μm程度

・細胞内にあって遺伝情報源であるDNAの大部分を含む

 

J核小体

・rRNAの合成とリボソームの組み立てをする

 

K核膜

・二重構造膜は50〜80nmの核孔(核膜孔)で貫かれ、一般に代謝活性の高い細胞ほど分布密度が高い。

※核孔は分子量12億程度(100種以上のタンパク質を含む)

 

L葉緑体

・高等植物から紅藻(ノリなど)までの植物に存在する細胞小器官

・光合成の全過程が行われている光合成器官

・直径5μmほど

・DNA、mRNA、tRNA、リボソームが存在

 

M繊毛、べん毛

・微細構造は同じ

・鞭毛が1細胞あたりの数が1〜2本と少なく、長さが数10μmと長い

 

 

<セントラルドグマ>

生物の一般原理として提唱される

・すべての生物において、遺伝情報は核酸分子中に塩基配列の形で保存されている

・子孫へは核酸から核酸へと伝達され、形質を発見するには核酸からタンパク質に伝達される

※塩基配列 DNAはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)

      RNAはアデニン、グアニン、シトシン、ウラシル(U)の配列。

細胞分裂直前→核内でDNAを複製

       核内ではDNAを鋳型としたRNAの合成(転写)が行われる

 

RNAの種類

 

・メッセンジャーRNA(mRNA)

タンパク質合成の際、アミノ酸配列を指示

 

・転移RNA(tRNA)

特定のアミノ酸と結合タンパク質合成の場(リボソーム)に運ぶmRNAの情報をアミノ酸配列に交換する際の仲介役

・リボソームRNA

リボソームを構成している

   ↑DNA、RNA、タンパク質の関係図(逆転写を行うのはウイルス)

<遺伝子暗号(コドン)>

タンパク質(機能分子)を構成するアミノ酸が20種に対し、DNA、RNAを構成するヌクレオチドは4種(塩基配列参照)。

その4種から3つのアミノ酸が組になりひとつのタンパク質を指定する

(例)UUU→フェニルアラニン

中にはタンパク質を指定する以外の役割も持つものもあり→開始、終止なんかを意味する

(例)AGU→開始コドン UAA→終止コドン

※終止コドンはタンパク質を指定しない

 

 

 

2.生体エネルギー論

<ATP>

・エネルギー代謝とエネルギー変換

細胞→ATPを介しエネルギーの授受が行われる

⊡呼吸、解糖・・・ADPと無機リン酸(Pi)からATPを合成

⊡筋収縮、能動輸送、合成反応・・・ATPを消費

  ◎ATPは生体エネルギーの伝達体である。

 

ATP → アデノシン5’−三リン酸のこと

生成  アデニン+リボース=アデノシン(ヌクレオチド)

アデノシン+リン酸=AMP、ADP、ATP(ヌクレオチド)

※AMP、ADP、ATPの総量は各生物でほぼ一定(2〜10mM)

ATP分子の狭い空間内に4つの負電荷が存在

 →ATPが加水分解を受け自由エネルギー放出をするエネルギー転換機構の重要な要素

 

F.A.Lipmann

1941 高エネルギーリン酸結合の概念を提出

 

・高エネルギー化合物

ある化合物中の特定の共有結合を加水分解

 →多量の自由エネルギーの減少が起きる・・・高エネルギー化合物

  そのときに加水分解を受ける共有結合・・・高エネルギー結合

※自由エネルギー・・・内部エネルギーのうち仕事に変換可能なエネルギー

 ΔG⁰=−7.3kcal/mol

ATP分解酵素・・・ATPase

 

<自由エネルギー、標準自由エネルギー>

G(自由エネルギー) 単位―kcal/mol

ΔG=ΔH−TΔS

(H・・エンタルピー、反応はΔHがマイナスになるよう進む

 S・・エントロピー、反応はΔSがプラスになるよう進む T・・絶対温度)

反応はΔG<0の方向へ進行する

 

ΔG⁰(標準自由エネルギー変化)

この反応で定温定圧下での自由エネルギー変化は次のようになる。

ΔG⁰・・・標準自由エネルギー変化(一定値、単位 kcal/mol

R・・・気体定数(=1.98[cal/molK]) T・・・絶対温度

 

これにより、考えている反応が起こるかどうかを予測可

ΔGは反応の進行条件下(濃度、T、pHなど)でのA、Bの自由エネルギーとC、Dの自由エネルギーの差をあらわす。エネルギーの小さいほうが安定だから、

反応は自由エネルギー減少の方向へ進む→ΔG<0の方向へ進む

※化学平衡・・・ΔG=0

ΔG⁰の求め方

上記の反応を考える。

  

※平衡定数は実際に測定される見かけの平衡定数である。

※標準条件下(T=25℃、p=1atmpH7.0、各成分濃度1M)では

→ΔG⁰は標準条件下での反応物と生成物の自由エネルギーの差

 

(例)ATPの加水分解

ATP+H₂O⇄ADP+Pi(無機リン酸)

ΔG⁰=−7.3 kcal/mol

→標準状態下での自由エネルギー差が7.3kcal/mol

→標準状態を保ったままで1molのATPが加水分解され、ADPとPiになる反応では、7.3kcalの自由エネルギーが放出される

 

実際のΔGの求め方

各部位でのATP加水分解のΔGを求めるのは困難

pH=7.0 , T=298K , p=1atm の場合ΔG⁰=−7.3kcal/mol からATP、ADP、Piの濃度を測定すればΔGが求められる。

一般に

→ΔGは7.3kcal/mol より大である。

参考  ADP+H₂O→AMP+Pi  ΔG⁰=−7.3kcal/mol

    AMP+H₂O→アデノシン+Pi ΔG⁰=−3.4kcal/mol

    ATP+H₂O→PPi(ピロリン酸)+AMP ΔG⁰=−4.6kcal/mol

3.酵素

<酵素>

生物の生産する触媒。生物の営む全反応のそれぞれに応じた酵素あり。各反応を生物が生存可能な緩和な条件下で円滑に行う。化学的本体はタンパク質である。

分子量は10⁴〜10⁶程度。

 

<酵素の分類>

EC1群:酸化還元反応を触媒する(オキシドレダクターゼ)

EC2群:官能基(リン酸基、アミノ基など)の転移を触媒(トランスフェラーゼ)

EC3群:加水分解反応を触媒(ヒドロラーゼ)

EC4群:脱離反応と付加反応を触媒(リアーゼ、シンターゼ)

EC5群:異性化反応を触媒(イソメラーゼ)

EC6群:ATPなどの加水分解と共役して2個の水分子をつなぐ合成反応を触媒

     (リガーゼ、シンテターゼ)

ase・・・酵素を表す

(ただしペプシン、トリプシン、キモトリプシンはaseはつかないが酵素である。)

酵素の例

ATPase(EC3,6,1,3) ATPを加水分解する

さまざまなATPase

 ATP産出系  F₀F₁−ATPase  ミトコンドリア内に存在、

H⁺の流入エネルギーを利用

 ATP利用系  Ca²⁺−ATPase  Ca²⁺流入時に働く

         Na⁺,K⁺−ATPase Na⁺、K⁺の入れ替え時に働く

         アクチン、ミオシン−ATPase  筋肉の伸縮

<酵素反応速度論>

反応物が生成物になる速度は活性化エネルギーと温度の関数である

→活性化エネルギーが小、温度が大で反応速度大

※以降反応物はS、生成物はP、触媒はEと表記する

 

◎ミカエリス―メンテンの式

・酵素反応速度と基質濃度の関係を示した式

・酵素の働きが理解できる限り、その本性に関心をはらわず、反応速度論の法則を応用して、1913年に酵素触媒反応の速さがその反応にあずかる物質の濃度にどのように関係するかを示す式。

・酵素反応は、酵素分子(E)と基質分子(S)が結合し、酵素基質複合体(ES)を生じてから化学反応が進行、この複合体から生成物(P)が遊離して酵素は反応初期の状態に戻ると仮定

          

※K・・・それぞれの反応速度定数

以下のことを仮定する

(1)反応の初期段階のみを考える([]≈0)

(2)基質初濃度は全酵素濃度より十分大

  つまり

 

 グルコースを基質としたヘキソキナーゼ→

 

<ラインウエバー―バークの式>

 ミカエリス―メンテンの式のひとつの変形式

酵素の阻害形成を解析するのに有効

図は上の通り。

<酵素活性の阻害様式>

生理的には、酵素活性の調節に阻害現象が重要な働きを果たしている。

研究対象としている酵素に対する可逆的阻害剤を見つけ利用することにより、その酵素の活性部位に関する重要な情報を得ることができる。

 

4.炭水化物

グルコースは血液中に存在(ヒト・・・80~100mg/100ml)し、これが生体エネルギーの直接の源である。グルコースは血糖とも呼ばれる。

A.Payon

1833 麦芽エキスからジアスターゼ発見 酵素名語尾をaseにする

1834 セルロースを発見 炭水化物の語尾をoseにする

 

<炭水化物(糖質)>

・地球上にもっとも多量に存在する有機物

・主に植物体を作っているデンプンとセルロースが大多数を占める

生体に重要な炭水化物

デンプン・・・大部分は貯蔵炭水化物(エネルギー源)

セルロース・・・細胞壁、繊維、木質繊維の成分

グリコーゲン・・・動物の主要貯蔵炭水化物(肝臓5~6%、筋肉0.5~1%

 

炭水化物の種類分け

・単糖類、二糖類、多糖類

・アルドース(CHO基を持つ単糖)、ケトース(CO基を持つ単糖)

・トリオース(Cが3つ)、・・・、ヘキソース(Cが6つ)

 

※糖の構造については高校の化学の知識でわかるはずなので省略

 

5.解糖

酒の研究から解糖に関していろいろわかったらしい。

<解糖と発酵>

解糖とは

嫌気的に(O₂を消費しない)D−グルコースをピルビン酸(クエン酸回路に続く場合)または乳酸(骨格筋の場合)に分解し、それに伴いADPとPiからATPを生成する代謝過程であり、多数の酵素が関与している

 

・骨格筋での解糖

この反応は二つの反応が関連している

  ・・・(@)

・・・(A)

(@)の反応で放出されるエネルギーで(A)の反応を起こす

効率は 

※解糖系の酵素はすべて細胞質ゾルに存在し、そこで解糖が行われる

・発酵(アルコール発酵)

 

<解糖系の酵素反応>

@ATPによるグルコースのリン酸化(ATP消費)

※キナーゼ・・・リン酸化酵素

※グルコース 6−リン酸のリン酸結合は高エネルギー結合ではない

◎解糖系の調節部位1

グルコース 6−リン酸によりヘキソキナーゼの活性が抑えられる

 →必要以上のリン酸化がおきないように調節している

 

Aフルクトース 6−リン酸への変化(アルドース→ケトース)

Bフルクトース 6−リン酸のリン酸化(ATP消費)

※この反応で作られたリン酸結合も高エネルギー結合でない

◎解糖系の調節部位2

6−ホスホフルクトキナーゼはアロステリック酵素である。

 

・アロステリック酵素とは?

酸素の基質結合部位と立体構造上異なった部位に低分子のリガンドが結合してその活性が変化する現象をアロステリック効果といい、その効果を示す酵素をアロステリック酵素という。※リガンドとはタンパク質と特異的に結合する物質のこと。

 

6−ホスホフルクトキナーゼは細胞内では非常に低い活性を示し、下記の各種調節因子の影響を受けて、解糖系の速度調節を行っている(律速酵素)。この反応が解糖を調節する最も重要な反応である。この調整によりATP濃度が一定に保たれる。

 

阻害因子・・・高濃度ATP、クエン酸、長鎖脂肪酸

活性化因子・・・高濃度ATP、AMP

※この酵素がかかわる反応はATPを消費するが、ATPがたくさんあっても反応は進みやすくならない。(結局この反応はATPを生成するためのものであるから)

 

 

Cフルクトース 1,6−二リン酸の開裂(ヘキソース→トリオース)

 

<C−C結合の切断 この反応を境にヘキソースはトリオースに変わる>

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